シャッフルレビュー今回からしばらく特別篇となります。
個人的に2018年に出会った曲の中から上位曲をレビューします。
それでは楽曲部門、2018年の第4位に選んだ曲はこちら。
矢野真紀「うず」
2001年2月9日発売AL『そばのかす』収録曲。
作詞作曲 矢野真紀
リビングでだらだらと浮遊しているような空気感のミディアム曲。(☆4.1)
部屋の中の日常がストーリー仕立てになっている点では
以前レビューした、柴咲コウの「glitter」(レビュー記事)とも共通してると言えます。
しかし、「glitter」は帰りを待つ恋人も出てくるし、サウンド含め全体的にお洒落でメルヘンの世界観に演出されているのに対し
この曲の場合は、あくまで野暮ったく地味な世界観です。
昨日買った出来合いのミートラビオリを電子レンジに入れ
四つん這いでダイヤル回して夢を託したり。
愛くるしいC3PO(シースリーピーオー)に見立てた洗濯機の働きぶりにうっとりしたり。
タイトル的に、2番から登場するC3POこと洗濯機への愛が強いのかな?
地味というか良い意味で「気持ち良いだらし無さ・気だるさ感」、非常にユニークな世界観で背伸びしてない分、知人の話を横で聞いているような(さくらももこ的と言えばいいのかな)、スーっと流れてくる空気感が心地よいです。
この曲の魅力でもあるこの淡々とした家庭感、何だろう以前「ひもの女」なる言葉がありましたがそれに近い主人公像。あくまでこの曲単体でのイメージですが、矢野真紀さんはインドア派なのか!?
また「誠実なパートナーあなたに首ったけなの」等
白物家電とのやりとりが、擬人化的に恋人とのやりとり(メッセージ)にも受け取れるような表現も所々にあります。
後半に登場する、「また頼ってしまう四角くて丸いお口」というのは何となく食の誘惑を感じたので冷蔵庫か?とも思ったが、これもおそらく洗濯機の事かな。彼女にとって洗濯機(C3PO)及び洗濯という行為は溜まった雑念をリセットして、自分もまるごと浄化した気分になれる、頼もしい相棒なのかもしれませんね。
そんな感じで、この曲からは部屋に点在する家電製品に囲まれて、横着してコードもこんがらがったりしつつも、そのダラしない自分にすらエクスタシーを感じる様な、
他人には見せられない一人暮らしの女性のオフの世界観が垣間見れます。
まとまりのない文章になってしまいましたが、ともかくこの
ダラダラ感、気だるさ、だらし無さ、家電との戯れ、擬人化した表現など
全てがこの作品において格好良い、気ダルシス(ケダルシス)として活きています。
矢野真紀の印象
個人的に矢野真紀さんは2000年の「夢を見ていた金魚」で認識して、CDTV等のランキングで見かけたりもしてましたが
「夢を見ていた金魚」がジャケット、PV共にヤーさんと不倫する女みたいな、
危ないセクシー系なビジュアルで、その時はあまり印象良くはなかったですね。
矢野まき – 「夢を見ていた金魚」[MV] (MakiYanoVEVO)
1カットで、水が迫り来る物理的に息苦しくなるPV。
中々面白い。金魚は可愛そうだが。
次のSg「タイムカプセルの丘」(曲は長らく聞いたこと無かったが)は、
一転して清楚なお姉さんビジュアルで、曲もバラード。
この対比、2面性のアピールが「派手で遊んでる感じに見せかけて、実はおしとやかで家庭的な面も~」みたいな
安易な感じ(彼女自身では無く、その戦略)が、逆に薄っぺらく感じてしまい、失礼ながらちゃんと曲も聞かないまま、矢野真紀という人はあまり良い印象では無いままでした。
(まあ今見返してみると、その後の彼女のスタイルを見ても「夢を見ていた金魚」がサウンド、ビジュアル共に異色作だった訳で、あのセクシーな感じも周りのスタッフから男リスナーを増やす為の強行戦略だったんだなと分かるわけですが・・・。)
そんな感じで、勝手に椎名林檎系の人※と認識していた自分は、その後先述の2枚のSgを収録したAL『そばのかす』の原宿系?のぶっとんだビジュアルを見た時に、「この人はどこに向かってるんだろう?」と若干動揺したのは覚えています。
※これらのSgの時期は実際に椎名林檎にも携わっている亀田誠治がプロデュースも行っていた。
そのALの3ヶ月後にACOが「星のクズ」というSgを出した時に「あぁー、ACOが『そばのかす』見て思い付いたんだろうな」と思ってましたが。
それ以降も「星のクズ」をたまに聞く度に『そばのかす』のビジュアルを思い浮かべてはいたものの、結局彼女の音楽については謎(「夢を見ていた金魚」の印象)のまま、20年近く経っていました。
そんなわけで去年、このALを聴いたときも、怖いもの見たさ的な興味本位で聴いたら。勝手にイメージしてた椎名林檎系というのも、すぐにぶっ壊れました。
王道過ぎるけどそこが良い「真夜中の国道」など良い曲は他にもあるのですが、「うず」の1曲だけでも彼女の人となりが十分に感じられました。
曲調はダラーっと気だるい(だがそれが心地良い)感じだし、歌い方もやや椎名林檎が尖った曲で見せる、(眉間にシワ寄せたような)歪ませ系の突き上げる歌い方(しゃがれ声?)もするのですが、やり過ぎないというか、
あと少しでやり過ぎになりそうなラインを絶対に行かないというか、そこの塩梅が絶妙なんですよ。(逆に林檎嬢はそのまま突き抜けてライン突破を多用してる印象、こっちの方が歌い手側は気分良いハズだし、ひとつの完成形としてスタイルの問題なので決して批判ではない)
自分は特に「うず」の終盤 “グルグルと回ってちょうだい” からのSっ気を出しながらも気品を感じる絶妙なパート。こんなに強烈にだらしなく・ワルっぽく演出しているのにも関わらず、伝わってくる心の素直さに感動すら覚えましたし、ともかく歌声に”品“を感じたんですよね。
歌声に人(育ち?)の良さが出ていて、すぐに”ああこの人絶対良い人だ“と確信してしまった。大げさかもしれませんが、クセが強めに思わせつつも隠れ優等生ぽさが、歌の先生ぽいというか、歌い手になるべきしての人だったんだなと感じました。
ともかくこのALを聞いて今までずっと彼女の事を変なイメージで分ったふりをしていたのを反省しました。
このALは20年近く遠回りをしてしまったけど本当に聞けて良かったです。
あまりにも『そばのかす』が好印象だったので、その後ワクワクしながら矢野さんの様々なALやらSgやら集めましたが、
やはり今は『そばのかす』が一番好きですね。
イメージイラスト
この曲をイメージしてイラストを描きました。
こちらです。
この曲の持つ、日常感とだけど目には映らないファンタジーさや、心の豊かさを
少し無骨で少しクールにイメージして描きました。
これ書いた後で、彼女の「なみだうた」というコンピ盤のジャケット(横顔シルエット)に、似ている!!と気付き描き直そうかと迷いましたが、狙って真似した訳ではないのでそのままにしました。
ただ、狙いではないにしろ同じ彼女のCD作品で無意識のうちに、影響受けた部分もあると思ったので素直に書いておきます。
記事中で、良い人だ~何だと書いたものの、彼女のインタビュー等も見た事もないので、正直実際の彼女の性格は分かりません。
ですが、彼女の色々な作品を聴いて、この方は場所や形態は変わっても生涯歌い続けていく人なのだろうなと思いました。
という事で今回は、筆者が2018年の楽曲部門4位に選んだ矢野真紀「うず」の楽曲レビューでした。
今までの記事の中でもかなり読みにくい文章だったと思いますが、お読み頂きありがとうございます。
次回は第3位の発表です。お楽しみに。